読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ベルギーひとり旅行記 (3) - アントウェルペン中央駅「Antwerpen-Centraal」

f:id:yag_ays:20170206232522j:plain

ブリュッセル3日目の朝は雨だった。ホテルの窓から外を見ると、路面が濡れているのがわかる。外の気温は摂氏4度とのことで、どうにも観光には適していない天気のようだった。本当は現地のテレビ番組の天気予報なんかを見て判断すれば粋なものなのだが、便利さに負けてインターネットでベルギー各地の今日の予報を見ると、ブリュッセル北部のアントウェルペンという都市付近はどうやら天気が良いらしい。一度行ってみたかった街だし、今日は1日かけてアントウェルペンを観光しようと思い立ち、まだ日も明けない午前7時過ぎに荷物をまとめてブリュッセル北駅に向かった。

ちなみに、アントウェルペン(Antwerpen)はオランダ語で、英語だとアントワープ(Antwerp)、フランス語だとアンヴェルス(Anvers)になる。この街がある州はオランダに接しておりオランダ語圏ということで、ここではアントウェルペンで統一させていただく。といっても、他の旅行記を見る限りアントワープと表記していることが多く、かの「地球の歩き方」でもアントワープと書かれているので違和感が大きいかもしれないが、その辺は適宜読み替えて頂きたい。検索のためにも書いておくと、これから訪れるのは「アントワープ中央駅」であり、「アントウェルペン中央駅」でもある。

アントウェルペン中央駅

ブリュッセルから電車に揺られること50分、ベルギー第2の都市アントウェルペンに到着する。電車を降りると目の前に広がるのは駅舎全体を囲う鉄骨のアーチ。

まだ日の出前ということもあり、窓から差し込む青みがかった淡い光がホームに差し込む。真紅の鉄骨に縁取られてそのグラデーションがより一層際立つ様は、朝にしか見れない貴重なものだったに違いない。

駅のホームから入り口へと歩いて行くと、大きな車止めが見えてくる。これぞ本来の意味での末端(Terminal)とも言える光景だ。普通の人は日常会話で駅以外の意味において「ターミナル」なんて言わないだろうから、こういった感想はもはや職業病に近い。

そして外からの乗客を招き入れるのが、このアントウェルペン中央駅のこの光景。評判は旅行記やらで知ってはいたものの、これほどまでに荘厳な駅舎だとは……。とにかく想像の上の上を行く建築に視野は埋め尽くされ、ただひたすらにカメラのシャッターを切り続けた。

細部を見始めたらキリが無いとはいえ、中央に輝く「ANTWERPEN」の文字は抑えておかねばなるまい。その上の装飾に関して詳しいことはわからないが、中央に見える城壁は、中世アントウェルペンが城塞都市であったことを思わせる。その側には都市の名前の語源ともなった巨人の手があったり、両側には多様な植物やら穀物があしらわれていたりと、商業や交易で栄えた街としての豊かさや歴史を感じさせる。

といっても、これは駅舎の玄関から見れば裏側。中央の通り口を抜けると、駅舎のエントランスに続いている。まだ朝が早いということもあって人はまばらだ。

階段を降り、大きなホールに出て後ろを振り向くと、そこに見えるのはこれまた息を呑むほどの建築が広がっている。さきほどの駅舎アーチから差し込む光に照らされた外側とは異なり、こちらは薄暗い建物の内側。石壁や彫刻が形作る影が、建物の違った一面を見せてくれる。

こちらは街へ続く出口方面。

ヨーロッパらしいシンプルな時計が、ここが駅舎であることを思い出させてくれる。

普段市民が使う駅舎とは思えないこのアントウェルペン中央駅だが、大きなホール脇の通路を覗くと、右手にはスターバックスがあったり、壁には金属の手すりが備え付けられていたり、奥にはエスカレーターも見える。天井の照明も現代的なのだけれども、まったく違和感なく入り込めるのが不思議でしょうがない。

せっかく人通りの少ない朝に来たのだから、もう少しぶらついてみようと思い、そのまま石造りの通路を通ってホーム側へ出る。さっき乗ってきた電車を見上げつつ、吹き抜けを覗くと下には別の線路が見える。ここアントウェルペン中央駅は、ベルギー国鉄による乗り入れは地上1Fで、町中を走るトラムは地下にホームがある。

とにかく取り憑かれたように目に映る光景を写真に撮り続け、気付けば外はだいぶ明るくなっていた。最後にアントウェルペン中央駅を外側から眺めて、やっと満足してアントウェルペンの街に繰り出すことができる。

余談

これは同日、アントウェルペンからブリュッセルに戻ってきた後に訪れたベルギー王立美術館の中の「世紀末美術館」でふと目に入った1枚。1905年のアントウェルペン中央駅の写真で、おそらく駅舎が建て替えられた直後に撮影されたと思われる。歴史だの伝統なんて簡単に言うけれども、約一世紀前のこの光景を、いまこの瞬間に生きる自分も見ることができたのだと、この古い写真を見て改めて感じさせられて少し身震いがした。

参考

ベルギーひとり旅行記 (2) - ブリュッセルのカフェ巡り「Peck 47」「Kaffabar」

f:id:yag_ays:20170205191520j:plain

カンティヨン醸造所の見学に前後して、ブリュッセルの美味しそうなカフェ巡りをすることに。選定基準はほぼトリップアドバイザー通りというなんともインターネットな人間だけれども、結果的にいえば大満足な選択だった。とりあえずパンとチーズはどこに言っても美味いと言われるヨーロッパで、こういったカフェ巡りも一つ楽しみとして増えた気がする。日本のカフェと比較して味や雰囲気がどうということではなく、その街にいる人が日頃使っているカフェに入って共に時間を過ごすという行為が、それだけで何とも嬉しい気分にさせてくれる。

Peck 47

安宿のしょぼい朝食には目もくれず、まず向かった先はグランプラス近くにある「Peck 47」というカフェ。まずはここで腹ごしらえといこう。

大きな窓ガラスが何やら商品のショーウィンドウを思わせる外観だが、外から中を覗き込むとカフェの落ち着いた雰囲気が見て取れる。

奥には調理場とカウンター、手前に15~20席程度のテーブルが並ぶこじんまりとした店内。

店長がほぼ一人で切り盛りしているらしく、調理したり運んだりと終始忙しそうにしている。周りの客も注文を待っているようだったので、自分もぼーっと外の景色を眺めながら待っていると、ようやくメニューを運んできてくれた。事前情報(from Internet)ではエッグベネディクトが有名とのことなので、まずはそれを注文し、本日のスープ、それにカフェラテも付けた。

まず最初に運ばれてきたカフェラテ。単色の陶器のマグカップが非常に可愛らしい。

続いて、メインのエッグベネディクト。焼いたイングリッシュマフィンの上にベーコンを載せ、その上に半熟ゆで卵が乗った一皿だ。とろける黄身を付けて食べるマフィンが、ベーコンの塩辛さとマッチして非常に美味。

そして本日のかぼちゃのスープ。これまた想像以上の量で、運ばれてきた瞬間に圧倒されてしまう。たかだかマグカップくらいのサイズかと思っていたのだが、実際はどんぶりくらいの器になみなみと入っており、味はとても美味しかったのだが結局少し残してしまった。

大満足で店を出て外観の写真を撮っていると、横には"CAKE OR DEATH"の文字が。今度はケーキを食べにきましょうね……

Kaffabar

続いてはカンティヨン醸造所のすぐ近くにある「Kaffabar」というカフェに昼飯を食べに行く。ここもトリップアドバイザーのランキング上位だから選んだとは言えるのだけれども、偶然にもカンティヨン醸造所から歩いて数分のところにあるお店で、自分にとってはとても都合が良かった。

お店は小さな広場の一角にあり、大きな窓と縦長なドアが美しい。ドアを開けて入ると、この店で飼われているブルドッグがお出迎えしてくれる。この犬は店にいる間、終始お客さんの足元をうろついたりしていた。写真は帰り際に撮った1枚で、何枚か記念に撮っていると最後に目線をくれた。なんとも愛嬌があるというか、落ちつているというか、はっきり言えば不細工な1枚だ。店内では別の犬に吠えられても全く吠え返さずにお利口にしていたので、肝が据わっているのだろう。

カウンターでクロワッサンとカフェラテを注文し、店内の椅子に座って店内をキョロキョロ。周りには、女性3人組が楽しそうに会話していたり、旅行のプランを立てているカップルがいたり、一人モクモクとPCに向かって作業している人がいたりと、どこの世界もカフェは変わらないんだなぁという印象。ただ、昼間から酒を飲むご妙齢の夫婦がいたりと、そういうところはヨーロッパっぽい。あと、ミニチュアダックスフンドを抱えて堂々入店するご婦人がいたり、犬に対する寛容度は高い。

自分もMacBookを開いて旅の日記を書いていると、注文したクロワッサンとカフェラテが運ばれてきた。さきほどのPeck 47のマグカップも良かったが、こちらの黒いカップもなかなか惹かれるものがある。店内の色に統一しているようだ。

メニューも黒で統一されている。大理石っぽい柄の机に見事に映える。

お昼時でだんだんと混雑してきたので、そのときは1時間くらいで店をあとにした。ブリュッセルの観光地からは少し外れたところにあって落ち着きがあり、いくらでもゆっくりコーヒーを飲みたくなるお店だった。

ベルギーひとり旅行記 (1) - ブリュッセル唯一の自然発酵ビール醸造所「Cantillon Brewery」

f:id:yag_ays:20170131115137j:plain

「君がビール飲めたらベルギー旅行は二割増しで楽しめたでしょうね」とは友達の言。

下戸である自分がベルギーに一人旅をしたのは、2017年1月末のこと。そもそも酒が一滴も飲めない自分が多くのベルギー観光客の主目的であるベルギービールを飲めないのは、何とももどかしい気持ちもあるのだけれども、そんなことは気にしない。

様々な町並みや古い建物をめぐる旅を一通り終えて最終日。遠出をするには時間がなく、かといって買い物だけでは物足りないくらいの空き時間ができたので、ブリュッセル市内にある「カンティヨン醸造所」というブリュワリーを尋ねることに。

Cantillon

このカンティヨン醸造所は、自然発酵による伝統的な製法でビール醸造を続けている、ブリュッセルに唯一残る醸造所。そうやって作られるビールは「ランビック」と呼ばれ、強い酸味を持つのが特徴だ。そう言えるのは実際に自分もこのランビックを試飲したからで、この醸造所は内部を自由に見て回ったあとに試飲できる見学コースを用意している。見学コースは実際に醸造を行っている設備や倉庫をめぐるもので、早ければ15分くらい、長くても1時間もあればじっくり見て回ることができる。

さて、Google Mapが指し示すカンティヨン醸造所についたものの、一見して閉まってそうに見える醸造所。入り口と思われる扉には確かに10時からと書いてあるので、そろりとそのドアを開けると中にはまさに倉庫といった様子で瓶やら樽やらがズラリと並ぶなか、端っこにはバーカウンターと簡素な飲食のスペースが見える。

中をウロウロしていると、気さくそうなおじさんに声を掛けられる。内部を見学したいと申し出ると、一通りカンティヨン醸造所とビールについて説明を受けたのち、日本語で書かれたパンフレットを渡される。ここから先は一人で自由に醸造所内を巡ることに。壁一面にビール瓶が積み上げられ、CANTILLONと刻印された木のビールケースが並んでいる。

見学コース最初にまず見えてくるのが、マッシング槽と呼ばれる大きな容器。これはオブジェなんかではなく、実際に今この瞬間醸造に使われているもの。ここで小麦と大麦麦芽が沸騰した湯と混ぜられるため、室内にはなんとも良い穀物の香りが立ち込めている。

その横には発動機が大きな音を立てて回り続けている。古めかしい機械が、この醸造所の古さを感じさせる。といっても今なお実際に回り続けて二階の粉砕機や撹拌するための羽根を動かしているのだから、バリバリの現役だ。

そこから二階に上がると、さきほど見た槽の上部にあたる部分が見えてくる。ここには、さきほどのマッシング槽に原材料を投入する粉砕機と、湯と混ぜられたあとに汲み上げられ煮沸を行う釜がある。

下から伝わった動力が実際に歯車を回している。こういう露出した古めかしい機械が心をくすぐる。

壁のレンガや窓から差し込む光がなんとも言えない雰囲気を醸し出している。奥には下から立ち込める蒸気も見える。

お次は穀物倉庫だ。屋根裏への階段を上がる。原材料の穀物の保管には、風通しのよい屋根裏が適しているのだとか。

醸造用の樽や荷運び用の台とともに、袋詰された原材料が積み上げられている。画一的な袋に詰め込まれていたりビニールの覆いが掛けられたりしている姿は、何とも現代的というか、ふとノスタルジックな気持ちを現在に戻してくれる。

ちなみにこれは展示用の荷台の上にあったもの。他では見なかったデザインなので、古いラベルのようだ。深緑の瓶に積もるホコリが、とても良い。

その後は製造過程に戻り、野生酵母を根付かせる冷却槽を見ることができる。この大きなバットのような槽に先程まで煮沸し糖度を高めた麦汁を流し込み、冷却とともに空気中の酵母を取り込む。当然ながらここで雑菌などが繁殖するとこの槽全体が失敗となってしまうため、この槽は小さな小窓から暗い中を覗き込む程度。

ちなみに、見学コースにはこのように番号が振られており、さり気なく次の順路を示してくれる。

そのこから一階に降りると、今度は樽の貯蔵室が見えてくる。上で冷却された麦汁はこの樽に入れられ、中でじっくりと発酵が行われる。

これらの樽はもともとワインなどに利用されていたもので、よく見るとそれぞれフランスの地名やらメーカー名やら別々の文字がかかれてあったり、ぶどうの絵の焼印が押されていたりとその面影が残る。その横にはきちんとカンティヨンのマーク。

これはいわゆる濾過器で、酵母菌の残骸などで濁ったランビックを通して濾過するらしい。この何ともいえないスチームパンク感がたまらない。

こうやって出来たビールが、樽に詰められて静かに出荷の時を待っている。

下では従業員が樽を転がして何やら作業をしている。実際の工程を見ることはできなかったが、おそらく熟成に使われた木樽を洗浄しているところ。

され、一通り見学したところで最初に案内を受けたホールに戻ってくる。最後の(多くの人にとっての)お待ちかねの試飲だ。流石に見学させてもらっておいて一滴も飲まないのも申し訳ないと思い、少しでいいと言ってグラスにビールを注いでもらう。

ビールは少し濃い色をしており、あまり泡立ちはない。少し口の中に含ませると、苦手なアルコールの味の中に、少し酸味があり、そしてなんとも形容し難い香りが広がる。今回の見学コースで好感度を極限までに高められた状態で味わう一滴だからというのもあるが、今まで不意に飲んだりしたビールよりも、麦やホップなどの素材に近い味がした。量は飲めないのだが、ちびちびと何度も少しずつ口に含んでは香りを味わう。

味の記憶というものは何とも扱いづらいもので、その味を思い出そうとしても思い出せないのに、いざそれを口にした瞬間その時の光景が思い浮かぶ。これを書いている今はこの時飲んだビールの味を鮮明に思い出すことはできないが、知り合いの土産用に買ったものがあるので、飲み交わすときに少しだけ、また味見させてもらおうと思う。

参考

カンティヨン・グース CANTILLON GEUZE 375ml
Cantillon(カンティヨン)
売り上げランキング: 82,520
【ベルギービール】 カンティヨン クリーク 375ml
カンティヨン醸造所
売り上げランキング: 271,144
カンティヨン フランボワーズ・ロゼ・ド・ガンブリヌス
カンティヨン醸造所
売り上げランキング: 164,693